第228号 視点を変えてみる

同じことを繰り返す日々の中で、モチベーションを維持することがいかに難しいか。
順調でない時は、その状況から脱却するよう努めるものですが、一転安定してくると一般的に人は挑戦を避け、守りに入る。

これは仕事に限ったことではなく、家庭生活でも学業でも恋愛でも、全てにおいて言えることではないかと思います。

先日、ディヴィッド・ホックニー展に行ってきました。
現代で最も革新的な画家と言われるホックニーは御年86歳。
2018年のオークションでは、現役アーティストの絵画として最高額の約102億円で落札されたそうで、1960年代にポップアートのアンディ・ウォーホルらと共に脚光を浴びた時代から、現在もなおアートシーンを牽引する存在として、美術表現の可能性を探求し続けています。

一見、写真なのか絵画なのかわからず、近くに寄って見てはじめて、絵画の上に切り抜いた写真を貼っているとわかる作品(フォトコラージュ)などは、切り抜きがちょっと雑なところも含めて、絶妙にお洒落。色合いも構図も今っぽくて、カッコいいのです。

パソコンやiPadなど、文明の利器も柔軟に取り入れた作品はモチーフも多彩で、観る人を飽きさせません。

富も名声も得た86歳の芸術家が、どのような気持ちで新しい表現方法を試し、世に発表するのか、美術館からの帰り道はずっとそんなことを考えていました。

それは決して自分を奮い立たせるでもなく、他のアーティストと比べて勝負するでもなく、湧き出てくる興味に正直に、ひたすら創作行為を楽しんでいるのだという結論にたどり着きました。

毎日の暮らしの中に、少しでもこのエッセンスを取り入れることができたら、私のぼんやりしている目がぱっと開くのではないか。仕事も暮らしも少し視点を変えてみることで、何か新しいものが見えてくるような気がして、今こそ小さなチャレンジをするべきだな、と思います。

例えば、食べたことのない魚を買って捌くところから調理してみるとか、味が想像できない異国の料理を食べに行くとか、お料理教室に通ってみるとか。
仕事であれば普段使わない花材を手に取ってみたり、思いっきりテイストの違う作品を作ってみたり。

同じものを見るにしても視点を変えれば、また新鮮な気持ちで向き合える。
そんなふうにして意識的にリフレッシュすることは、長い人生をずっとワクワクしながら生きるために必要なことかもしれません。

ディヴィッド・ホックニー展は11月5日まで。
限られた時間ですが、ご興味ある方は是非足を運んでみて下さい。

(2023.10.31 こまつ)