第205号 小瓶捨てるべからず

実家に帰ると、必ず母がキッチンから手作りのご自慢の保存食を持ってきます。

「今年の梅干し、上手に漬かったよ。」
「この生姜の酢漬けが最高。」
「ラッキョウが美味しくて美味しくて。」
「葉唐辛子の佃煮、ちょっと食べてみない?」

近くに配達に来て立ち寄っただけだから、すぐ帰るからいらないといっても、箸でつかんで私の口元にまで運んできます。
私は観念して渋々食べる…いつもその繰り返しです。

でも思いのほか美味しくて「美味しい!これどうやって作ったの?」と母に尋ねることもあり、そうなると作り方を説明しつつ、小瓶に取り分けて持たせてくれるのです。

帰宅してから、忙しくてゆっくり食事ができない時でも、温かいご飯にこんな添え物がちょっとあるだけで、なんだかとてもホッとする。
それは懐かしい味と母の優しさを同時に味わっているからなのかな、と思います。

だから我が家ではジャムや佃煮の小さな小瓶は捨てません。
母の保存食を分けて入れてもらうために、洗ってとっておくのです。

匂いもつかず、汁も漏れず、冷蔵庫の片隅に納まる程よい大きさの小瓶たち。
小瓶捨てるべからず。

(2021.10.28 こまつ)