第84号 家出の記憶

幼稚園に通っていた頃、私は家出をしました。
原因は今ではもう良く覚えてないのですが、母と言い争いになり、怒った私は自分のバッグから、幼稚園で渡された青い色画用紙を出して、ビリビリに破きました。その様子を見た母は更に大激怒し、涙を流していました。母の様子に動揺した私は、思わず「家出するから!」と強く言い放って、家を飛び出しました。

春の花たっぷりのカラフルな花束。

春の花たっぷりのカラフルな花束。

誰も引き留めてくれない事に戸惑いを感じながらも、すぐに家に戻るのは格好悪いと思って、家からはちょうど見えない、一つ角を曲がった電柱の陰に隠れていました。すぐ傍で真っ赤に咲いているダリアの花を不安な気持ちで見ていたら、妹が泣きながら追いかけてきて、家に帰ろうと私の腕を引っ張り、こんなに懇願されるなら仕方ないと、二人でトボトボと帰宅しました。

子供の頃、母親から叱られた日は、夜になると決まって母が私の枕元に来て、「今日は叱ってごめんね。」と謝ってくれました。悪い事をしたのは私なのですが、謝って頭を撫でてくれる母の手に安堵して、ぐっすりと眠ることができました。

沢山のアレンジメントをレストランにお届け

沢山のアレンジメントをレストランにお届け

家出をした日の夜、私は布団の中で隣に寝ている妹に言いました。
「お母さんね、きっともうすぐ謝りにくるよ。」
でもその日だけはどんなに待っても母はやってきてくれず、待ちくたびれた私はそのまま眠りについてしまいました。今思えば、それは母の私に対する、怒りと深い悲しみの表現だったのだと思います。

1週間後、ビリビリの青い色画用紙は全てセロハンテープで張りあわされ、両親は恥ずかしそうにそれを持って運動会の応援に来てくれていました。私が破ったのは、運動会のプログラムでした。

カフェのカウンターを華やかに演出する造花アレンジです。

カフェのカウンターを華やかに演出する造花アレンジです。

真っ赤なダリアの花を見ると、今でもこの日の記憶が蘇ります。悲しくて、切なくて、恥ずかしい思い出の花です。

(2011.2.24 こまつ)