第71号 涙のわけ

年の瀬も押し迫ったある日。私は市場からの帰り道、ポロポロと涙をこぼしながら運転していました。

先日オープンの住宅展示場。庭づくりとガーデンディスプレイを担当しました。

先日オープンの住宅展示場。庭づくりとガーデンディスプレイを担当しました。

その日は、大規模な仕事に使う花材を仕入れるため、早朝から市場のセリに参加していました。その後、競り落とした商品が積んである自分の台車を見て唖然。そこには車の積み荷スペースの2~3倍はある、花の入った段ボール箱が・・・。過去の経験から大丈夫だろうと甘く考えていたけれど、今回はかさばる花も多く、積載量の見当が外れていました。

「どうしよう。市場と自宅を2度往復したのでは、時間も体力も無駄になる。何とかしてこの荷物を全部車に積まなくちゃ。」と、少しでも量を減らすために段ボール箱を一つずつ開けて、花を取りだし積んでいくものの、花を傷めないように積むには限界があるし、箱を開けても開けても終わりが見えない・・・。
他の花屋さんたちが次々と帰っていく様子を見て、さらに気持ちも焦るばかり。

りんごを沢山頂きましたが、食べきれないので・・・

りんごを沢山頂きましたが、食べきれないので・・・

そんな時、ひとりの花屋さんが私の横に来て「よし、次はこの箱開けて」と手伝い始めてくれました。おそらく私の父と同じくらいの年齢の花屋さんは、「この花は折れやすいから最後に積もう。最初はこれを敷き詰めて。次にユリをのせて。」と自分も手を動かしながら、アドバイスをくれました。

 

ジャムを作りました。ものづくりは、やっぱり楽しい。

ジャムを作りました。ものづくりは、やっぱり楽しい。

面識のない方だったのでビックリしたけれど、その花屋さんの「大丈夫。全部積めるよ。」という言葉に安心して、目の前にある箱を一つずつ開けて積んでいきました。

やっとのことで全部積み終え、「ありがとうございました!お名前を教えて下さい。」と帰ろうとする花屋さんの背中に声をかけましたが、「いいよいいよ。早く帰りな!」と笑顔で立ち去ってしまいました。

その後、私は安堵と感動で涙をこぼしてしまいました。
そして私は同じような状況の時、果たして人を助けてあげられるだろうかと自問自答しました。年末で、どの花屋さんも忙しく疲れきっているはずなのに、自分も体を動かして手伝ってあげられるだろうかと。

仕事を通して得られる「最も価値あるもの」は、このような出会いや経験ではないかと思います。私がこれからも仕事を続けていきたいと思う大きな理由がここにあります。心に深く刻まれたこの気持ちを忘れることなく、今年もまた仕事に向かい合いたいと思います。
2010年も四季旅人をよろしくお願いいたします。

(2010/1/31 こまつ)